「空手に先手無し」の意味するもの
空手道の最も重要な教えの一つは「空手に先手なし!」という格言です。この格言は、船越義珍によって提唱された「空手道二十条」の第二条に含まれており、空手の精神的側面を表現しています。この教えは、空手家だけでなく、一般の人々にも広く知られています。しかし、船越自身がこの思想を初めて提唱したわけではありません。「空手に先手無し」という考え方は、古くから存在し、船越がそれを広めたという訳です。
さて「空手に先手無し」とは、空手においては、相手よりも先に攻撃してはならないという意味の武道の教えです。先手を取ることは不義であるという考え方で、空手はあくまで護身術であり、相手を傷つけることなく、自分の身を守るための技術であるという考えに基づいています。そのため、先手を取ることは、相手の身を危険にさらすことになり、不義であるというのです。また、受けの姿勢を示す事で相手の戦意が喪失し、無用な争いを回避する狙いもあります。
空手の歴史から理解する
「空手に先手無し」の意味をより深く理解するためには、空手の歴史や目的を理解しておくことが重要です。
空手は、沖縄で発祥した武術です。その起源は、琉球王国時代の武術である唐手(とうて)に遡ります。唐手は、中国の武術と琉球の伝統武術が融合して生まれたもので、主に徒手空拳で戦う武術です。
かつて琉球王国は武器を持たない平和国家であったことが由来であったと考えられます。
空手は、戦闘技術として発展してきましたが、その目的は、あくまでも自衛や護身です。空手家は、相手に危害を加えることを目的として武術を修行するのではなく、自分や大切な人を守るために武術を学びます。そのため、空手に先手無しの教えは、空手家が武術を乱用することを防ぐための戒めとして、重要なものなのです。
空手に先手無し 2つの解釈
空手に先手無しの教えは、以下の2つの意味を持つと考えられています。
相手より先に攻撃してはならないという戒め
「空手に先手無し」とは、相手より先に攻撃してはならないという戒めです。この教えは、空手家が武術を悪用することを防ぐために重要なものです。
空手は、相手よりも先に攻撃することで、容易に相手を制することができる武術です。しかしながら、先に攻撃を仕掛けることは、相手を傷つける可能性があります。その結果、相手との対立が深まり、次の争いの火種を残すことになるかもしれません。このため、空手家は、「相手より先に攻撃してはならない」という戒めを守ることで、武術を悪用しないようにしています。
空手の祖である宮城長順が残した格言「人を打たず、人に打たれず」という哲学も、この「先手無し」の教えに含まれています。無用な争いを避けるという意味でも、常に冷静に心に余裕をもってこちらから攻撃する様な姿勢を見せなければ、相手からも無暗に攻撃される事はなくなるのでしょう。
相手を崩してカウンターを打つという戦略の側面
一方で「空手に先手無し」は、相手を崩してカウンターを打つという技術を表す言葉としても解釈されています。
空手の戦術として相手の攻撃をかわしてカウンターを打つという技術は重要です。相手の攻撃を効果的にさばいて、相手の体制を崩してカウンターを打つことで、相手をより効果的に倒すことができます。
空手に先手無しは、空手家の精神的側面を示すものであると同時に、空手における重要な技術を表す言葉でもあるのです。
「空手に先手あり、然れども私闘なし」の意味
大山倍達(1890-1987)は、極真空手の創始者として知られる日本の空手家で、現代空手の発展に大きく貢献しました。彼の格言「空手に先手あり、然れども私闘なし」の「空手に先手有り」という表現は、明らかに「空手に先手無し」の格言を意識して生まれた言葉でしょう。この表現は、一見矛盾しているように見えるかもしれませんが、実際には両者が補完し合う重要な概念を含んでいます。
「空手に先手あり」は、空手には攻撃の技術が含まれていることを示しています。空手は自己防衛のための技術であり、危険な状況で自己や他人を守る手段として使われることがあります。この意味で、空手には攻撃の手段が存在するということを認識しています。
一方で、「然れども私闘なし」は、私闘や乱闘を避けることの重要性を示しています。空手の技術や力を悪用して他人との私闘を起こすことは、空手の精神や目的に反するものです。したがって、自己防衛のための手段としての空手は認められるものの、乱闘や私闘を引き起こすことは良しとされていません。
この格言は、空手の技術や力を用いる際には慎重さと責任を持つこと、そしてその力を自己防衛のためにのみ使用するべきであるというメッセージを含んでいるのです。
まとめ
「空手に先手無し」という格言の本質は、相手への敬意や自己防衛の姿勢、そして自分の内面の力を高めることにあるといえます。空手を嗜む者は、次のことを心に留めておくべきです。
自分の力を過信せず、誇示せず、また相手を挑発しない態度を持つことは、武道家としての心構えにおいて非常に重要です。自己抑制の精神を内に宿し、争いごとが発生する可能性のある状況であっても、冷静さを保つことが最も価値のある姿勢です。
要するに「先手無し」の精神とは、自己と相手への謙虚な姿勢を貫くことに他なりません。これこそ空手の真髄と言えるのではないでしょうか。
コメント